「並里成、琉球キングス入団」記者会見詳報。

watanatsu

2011年09月14日 08:06





昨日、並里成(なみざと・なりと)選手の琉球ゴールデンキングス入団会見へ行ってきた。

まず、木村達郎代表から経緯の説明があった。この日、正式契約のサインを済ませてから、記者会見に臨んでいるとのことだった。

震災後、JBLの活動休止が決まって間もなく、並里は、キングスの練習に参加するようになっていたのだという。
「その過程で、彼がどういう姿勢でバスケットに取り組んでいるのか、よく理解することができましたし、並里君にもキングスがどういうチームなのか、わかってもらえたと思います」
「しかしその頃は、彼はアメリカへ行くもんだと思っていましたから、まさかこんなふうに、入団発表の日が来るとは思ってもいませんでした。もちろん来てくれたらいいなぁとは思っていましたが(笑)」

並里成は、沖縄市立コザ中学校を卒業後、福岡第一高校に進学、全国優勝に貢献し、ベスト5に選ばれ、あるいはU-18日本代表に選ばれるなどしてきた有望選手。漫画家の井上雄彦氏が設けた「スラムダンク奨学金」の第一期生として米国留学を果たしたことでも知られている。バスケ素人のわたしでさえ、米国留学中の彼を追ったテレビドキュメンタリーを視たことがあるぐらいだ。すでに広く名の知られた選手である。並里の目標は、あくまでNBAだ。

その彼が、地元沖縄のプロチームの一員になるのだから、縁とは不思議なものである。

木村代表は、今季NBAのロックアウトとの関係についても説明した。
わたしなりに大づかみに要約すると、NBAでは労使協定が締結できぬまま、選手たちは競技場や練習場などの立ち入りさえ禁止される状況が生まれてしまっているので、並里も、アメリカへのチャレンジを断念せざるを得なくなったということ。ただ、アメリカ行きを優先させたため、bjリーグを希望する選手に義務付けられているトライアウトにも参加出来ずに時間が経過した。そこで、並里はbjリーグに相談(直訴)をした。このリーグでプレーしたいのだが、なんとかならないだろうか、と。

そこで、bjリーグとしては、コミッショナー裁定の特例として、今季に限り「リーグ保有選手」という扱いにすることを決定。そのうえで、「競争入札」を行い、最も高い年俸を提示した球団に、1年間所属することとなった。来季、並里がbjリーグでのプレーを希望する場合は、新人ドラフトの対象選手となる。

要するに、将来有望な選手が、プレーできず「マイナス期間」を過ごしてしまうことを避けるための特例措置なのである。

並里は、この8月で22歳になったばかり。まだ伸びしろのある選手。
木村代表は「たとえ1年でも、契約する価値のある選手です。シーズン序盤から活躍してもらえると思っています」と言い切った。そしてこう付け加えた。
「実際、皆さんに試合会場でプレーを見てほしい選手です。ドリブルひとつとっても独特のリズム感でワクワクします。長くバスケを見てきているわたしでさえ、彼がパスを出す瞬間、『あれ、今何やったの!?』とわからない場面があったりするほどですから」

並里自身は、この間どう感じてきたのだろうか。
「お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます」と礼儀正しく挨拶を述べたあと、テレビ局キャスター、ディレクター、新聞記者からの質問に答えるかたちで、彼は現在の思いを語った

「(外国人選手が試合に1人しか出られないJBLと違って)bjリーグでは外国人が多いですから、その中で、日本人として活躍したいという思いがあります。(実際に練習ゲーム等に参加してみて)ビッグマンが多いので、コートが小っちゃくみえたりすることもあります。パスをするときも、一瞬の隙をつくパスをしなければいけない、と感じたりもします。でも大きい選手がたくさんいたほうが、小さい選手としての自分のやりがいを感じます」

「沖縄の皆さんの前でプレーするのは、中学生以来7年ぶりですので、成長した姿を見てもらいたいです。ゲームの流れの早い段階から、パスを出したりシュートを打つところを見てほしいですね」

「ポイントガードとしてチームを引っ張って、優勝まで行きたい。その瞬間をみんなに見てもらいたいです」

「(コザ中の)大先輩で同じポイントガードの与那嶺翼さんとは、どうチームを引っ張っていったらいいか、話し合って考えていきたいです」

「(具体的にビッグマンをどう動かしていきたいかという質問に)マックとかジェフとかに、より強いバスケをさせられたらいいのかな、と思います」

なんとも頼もしい発言の連続である。
与那嶺翼も、いい刺激を受けていることだろう。周囲から信頼されているキャプテンとはいえ、すでに新人・山内盛久も「与那嶺さんのプレータイムを奪うつもりで頑張ります」と宣言している。油断禁物のシーズンである。

「(ファンタジスタと称されることがあるが、という質問に)僕自身は、ファンタジスタの意味がよくわかってないんですが、トリッキーなプレーを見せたいですね」

「(ファンへひと言、と水を向けられ)ぜひ皆さん、会場に来て、僕やキングスのプレーを観てほしいです。開幕戦ももちろん出場して、最初の一勝ができればいいと思っています」

「(目標とする選手は、と訊かれ)ダラス・マーベリックスにバレアという選手がいます。身長175cmぐらいの、だいたい控えから出ていく選手なんですが、大きい選手に立ち向かっていく姿勢が好きです」
で、当方NBAの公式サイトで確認したところ、身長は183cmと発表されているが、チーム一小柄な選手であることは事実だった。NBAというところ、いかに巨漢がゴロゴロしているかがわかる。数字の違いで揚げ足を取るつもりはない(笑)。並里の言わんとするところは、非常によく伝わってくる。

最後に、憧れの選手はと問われ、「マイケル・ジョーダン」と即答した。そして、背番号を「37」に決めた理由も教えてくれた。
「小中高と、ずっと14番をつけていました。それにジョーダン(の23)を足して、37です。少しでも近づきたい、という意味です」

キングスというチームは、不思議である。
神様(この言葉は、それぞれの宗教的立場で、どう解釈されても結構である)に祝福されているチームではないか、と思える。

昨季終盤、東日本大震災で複数のチームの活動ができなくなり、仙台89ERSから、志村雄彦が期間限定でキングスにやってきた。
「命のあることのありがたさ」を痛感し「被災地・宮城の皆さんに少しでも元気を送りたい」と願っていた志村の、文字通り気持ちを込めたガムシャラなプレーは、チームに大いなる刺激を与えた。そのことが、優勝に直結するほど現実は甘くはなかったが、しかし「大切な何か」がチームにもたらされたことは間違いなかった。

そして今季は、並里成の入団である。
将来的にNBAを目指す彼にとって、はたして1年限定のプレーとなるのか否か、こればかりは今季を終える頃にならなければわからない。だが彼の存在が、メンタルにおいても、プレースタイルにおいても、「大きな化学作用」をチームにもたらす。これも間違いのないところだろう。

じつはわたしには、並里成の入団も、キングスにとっては「必然」ではなかったか、と感じられるのである。
それは、琉球キングスの設立動機、理念にも関係する出来事のように思われるのである。

何が言いたいか……。

記者会見中、なにげなく披露された次のエピソードは、もし質問の機会があればわたしが訊いてみたいと思っていた部分だった。

彼は昨季のキングスの何試合かを、沖縄で観戦する機会があった。
そのとき、木村代表に対して彼は、思わずこう言った。
「沖縄、熱いっすね」
木村代表も思わずこう返した。
「おまえだって、ウチナーンチュだろ」

その時の気持ちを並里自身が、わかりやすい言葉でこう説明していた。
「沖縄のファンの皆さんの応援が熱くて、チームもみんながひとつになって戦っていて、いいなぁ、と思ったんです」

つまるところ、沖縄が、並里成を、沖縄に呼び戻したのだ。

その沖縄の「地熱」のごときパワーを背に受けて、並里が再ブレイクする姿を目撃したい。

「(沖縄でプレーを観ることができるので)家族は、かなり興奮しているようです」

いや、並里成の家族だけではない。
沖縄のブースターは、ますます、今季のキングスから目が離せなくなっているのである。

琉球キングスは、選手・スタッフが一体となって、沖縄県民から愛されるチームとして成長を遂げてきた。
今では、毎年優勝争いすることを宿命づけられているチーム、といってよい。
成功には、理由がある。
わたしが言うまでもないことだが、地域に根差したチームのその理念、原点を忘れずに、さらなる成長を遂げてほしい。心からそう願っている。




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