あなたは、「人間を評価するときの基準を、たったひとつ挙げるとしたら?」と訊かれたら、いったい何と答えるだろうか。
わたしの場合は、はっきりしている。
「他者の痛みがわかる人間」かどうか。
この一点である。その点で尊敬できる人を、わたしは何人も知っている。
その基準からすると、いわゆる2ちゃんねるの、陰口、悪口、人格否定、誹謗中傷、差別発言、なんでもござれの「匿名のコメント」が飛び交う光景は、わたしが最も嫌うところのものである。
昨夜遅く、当ブログへその世界からの来訪者があり、徒党を組んでわたしのブログの大切なコメント欄を荒らし始めた。これまで、ちゃんとした大人たちが、礼儀正しく丁寧に使ってくれていたコメント欄が、一瞬にして異質な空気に包まれた。
ひと言でいえば、礼儀知らず。哀しいかな、人の痛みを知る以前の、マナーの問題。
コメント欄を閉鎖してしまったために、彼らに見せてあげられないのが残念だが、これまでコメントを残してくださった方のほとんどが、きちんとした挨拶から入ってくれている。「こんにちは」「はじめまして」「初コメントさせてもらいます」「お久しぶりです」といった具合である。
だから昨夜、わたしは驚いた。仮にA君と呼ばせてもらうが、A君は、「よく言うよ!」という捨てゼリフから書き始めたのだ。論争、批判、ケンカにもルールがある、ということをまったくわかっていないのだ。そのあまりの異質さにわたしはビックリしたが、ピンときて、調べてみて納得できた。「追跡捜査」の結果、およその「身元」が判明したのだ。
A君は、あの「匿名コメント」の悪口陰口合戦に慣れっこになってしまっている少年であった(とても大人とは思えないので、そう呼ばせていただく)。2ちゃんねるを使い慣れていた人物だった。「あの世界」では、挨拶抜きの言いたい放題が許されているらしい。だから、納得できるところがあった。しかしその流儀、2ちゃんねるでは許されても、当ブログのルールでは、許されないのである。
A少年のしたことは、こんな「お話」として、表現できる。
*
ついさっきまで、インターネット上の匿名同士のヴァーチャルなコミュニケーションにどっぷりはまっていたA少年、人から「あそこの家に行くと、きょうの高校野球の話題が聞けるはずだよ」と聞かされて、ぶらりと沖縄県のある町に降り立った。そして目的のその家、「渡瀬夏彦」と表札のかかった家の前までやってきた。
するとA少年の耳に、家の中からオジーのこんなひとり言が聞こえてきた。
「わした島(おれたちの島)の選手が、他県の代表としてではあるけど、甲子園でよく頑張ったさぁねー。負けたけど、いい試合だったさぁ。両チームとも頑張ったねー。しかし、背筋痛で降板した相手チームのエースピッチャー、あしたから大丈夫かねー。ちゃんと手当てして、決勝戦のマウンドまで行ってほしいさぁー」。
それを聞いたA少年、いきなり「こんばんは」の挨拶もなく、ましてや自分がおよそ何者であるかさえまるで説明もせず、玄関先で唾を吐き捨てながら、室内に土足で上がりこんだ。開口一番「よく言うよ! あのバカな2塁手が、ラフプレーで相手のエースにケガさせたんじゃねーか。汚い選手だ!」と、思い切りののしったのだ。
この時点ですでに、A少年に選手を批判する資格などないはず。。。
その家の主、渡瀬のオジーは、怒るよりあきれた。こんな礼儀知らずのワルガキ少年には、なるべく早くお引取り願おうと思った。少なくとも、もともと自分には、こんな少年をまともに相手にする義務などまったくない。
すると、ずかずか上がりこんだA少年、急にまじめぶった声色になって、こう言うのだ。
「いえ、じつはプレゼントをもってきたんですよ。おじーさんのビデオデッキでこのテープ、見てみてよ。きょうの試合のラフプレー、ちゃーんと映ってますからね」
渡瀬のオジーは思った。「人の玄関先で唾吐いて土足で入ってきておいて、ものを恵んでやるから受け取れだと! このオジーをバカにするのもいい加減にしろ! 出て行けーっ」。そう叫びつつ、追い出した。
すると今度は、どこからともなく次々に人影が現れて、「あの2塁手のやったラフプレーは許せないぞー」「おじさんは、ちゃんと試合見てたのかー、どこがいい試合なんだよ」「バカたれー。あんたの意見を聞かせろー」「あの2塁手を叱ってやらないといけないよ、本人のためにも!」。そんな大合唱が始まったのだ。
オジーは思った。これが噂の、「2ちゃんねる村」に棲むというマジムン(魔物)か!
部屋の中まで入られたら、家ごと燃やされると聞いたことがあった。
オジーは、これから来客を迎えて、縁側で風に吹かれつつ昔話に花を咲かせたいと思っていた矢先だったが、グッと我慢して、雨戸を一気に閉め切った。
よし、これで、ひと安心。マジムンは入ってこない。大切な家を燃やされてはかなわんからな。。。。
しばらくすると、雨戸の外から、ご近所のカメオバーが、「煮付けつくったから、オジーもカメー(食べなさい)」と声をかけてくれた。しかしオジーは、呟いた。「にふぇーでーびる。でもよぉ、マジムンに家を焼かれたくないからよ、雨戸は開けられんさー。しばらくは、このままにしておくからよー、カメオバーごめんなー。これからはお互い電話で話そうねー」
そもそもA少年が、ヴァーチャルの世界からの訪問者なので、若干(?)脚色がきつくなったが、しかしまぁ、はやい話が、昨夜の出来事は、そういう「お話」なのだった。いや、まだエピローグがある。
野球の試合の中身については、渡瀬のオジーは、ちゃんとその試合の録画ビデオをもっていて、A少年から映像を恵んでもらう必要などはなかった。
そして問題の「1塁ベース付近での接触プレー」を見直してみた。なるほど、見方を変えればなんとでも言える。まさにいろいろな意見が百出する。収拾はつかない。現に、審判団だって、2塁手や監督に、注意らしい注意もできなかったわけだ。逆に相手チーム・バッターランナーの「全力疾走とコース取り」に、まるで落ち度がないのか、といえば、これも議論百出だ。収拾はつかない。どちらも悪い、という意見も結局出てくる。
少なくともこれだけは言える。一人の高校生を、罪人扱いする神経は、オジーは持ち合わせていない。なぜって、オジーはこの歳になるまで、めちゃくちゃな失敗だらけの人生を送ってきているんだからよー(大苦笑)。誰かの存在を否定するような言い方したら、あとで自分のほうが恥ずかしくなってしまうわけさー。
危険なプレーを極力避けるべきだと思うのは、それはあまりにも当然のこと。小学生だってわかること。A少年とマジムンたちよ、何もそのことで、鬼の首とったように、2塁手の郷土の応援団の、このオジーに文句を言いに来ることもあるまいに。
オジーはこう言いたいのだった。
自分の意見に自信があるなら、オジーなんかに噛み付く前に、審判団に手紙を書きなさい。それから2塁手本人にも、ちゃんと手紙書けばいいさぁ。あ、そのときは、ちゃんと自分の名前を書くんだよ。匿名では、受け取ってもらえないからよー。
さらにオジーは、ふとこう思った。
カメオバーの煮付けを食べながら、縁側で楽しくゆんたく(おしゃべり)出来る日は、いつだろうか。。。。きょうは三日月のはずだが、雨戸を閉め切っているので、見ることもできない。しかも、暑すぎる。ふぅ、息苦しい。
みんなが安心して窓を開け放って、普通に意見を言い合える日が来てほしいさー。
オジーはよー、A君がほんとはいいやつだって、とーっくにわかってるわけさー。マジムンのなかにも、礼儀正しい感じの声で語ってたのもいたからよー。できないわけないさーねー。
そんな日、早く来ないかねー。